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藤倉明子さんのパリ通信 vol.32014.04.30

  

 パリから帰国してから約1カ月。本当はパリでオープンスタジオの報告をしようとしていたのですが、最後の最後で風邪で寝込み、荷造りと部屋片付けと帰国用意とで、報告が出来ませんでした。

 

 

期間は2日間。2月の半ば、オープンスタジオをドキドキしながら開催しました。フランス語はまったく自信がありませんでしたので、卒業してから10数年。ほぼ卒業と同時位にパリに移り住んでいる女子美の同級生に前半の1日だけ通訳をお願いして開催しました。後半の1日は自分で英語でのりきりました。パリではこのごろ、英語が普通に通じるので、大丈夫なのです。

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シテの施設ではほぼ2カ月に1度の割合で、「オープンスタジオをしませんか」という募集があります。

前任者から、「部屋が別棟ということもあり、人にきてもらうには、比較的大勢の人が開催している期間に開く方が、より人に足を運んでもらえる」という事前情報もありましたので、行いたい日時あたりに、「次にその機会があった場合はご連絡ください」とシテの事務の方にお願いしていました。

  

この頃日本で発表するにあたり、『このような表現を描かなければならない‥』というところが少なからずあるように思えて違和感を持ち、自分の本当の描きたいものの方向性が見失いかけている気がしていました。渡仏を機会に、この1年は『この期間までに何枚仕上げる』や『しなければならない』『描かなければならない』という思いを一回捨て、多くの偉大な作品に囲まれながら、思い切って『自分の琴線に触れたものを描きたい、どうしても描かなければじっとしていられない』ものしか描かなくていいという気持ちで勉強してきました。実際には毎日何がしか描いていましたが‥。

  

ですので、「『オープンスタジオ』を必ず開催する」と渡仏前から必須にしていていたのではなく、「自分がその気になったら開催する」という気持ちでいたので、パリで制作していく上で、自然に「オープンスタジオを開催したい」という気持ちが出てきての開催したのでした。

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全てパリにきてからの作品を展示しました。作品は今までと比べると、どちらかというと表現が地味かもしれません。ですが、今回の勉強は「自分の気持ちから自然に発生した思いを、誇張なく描く」というものでしたので、「こう見えた方が見栄えがいい」とか「この表現が一般的」などの気持ちが極力なく、描いたものです。

なので、派手なものを描くわけでもなくノルマもなく、自然に自分のうちから出たものを日本画の表現で描いたものばかりでした。

  

まず、人が集まるかも心配でした。この施設は1年暮らしていましたが、増築に増築を重ねているせいか本館は少し迷路のようですが、それが同じ施設内でも私が暮らしている別棟になりますと、さらに複雑になり、「同じ施設内に住んでいるのに、となりの棟にはどうやって入るのかさえもか全くわからない」‥という不思議な構造です。なので、ネットや広告できて下さった方がよくうろうろしているのは目にしていたので、入口から入りやすいように、たくさんの方向を示すチラシを貼り、迷わず来られるように工夫しました。やはり海外では自分で宣伝するには限界があり、そんなに出来ませんでしたが、70人近くのお客様が来室してくださったと思います。フランス人や日本人ばかりでなく、いろいろな国からの人がきてくださいました。

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私の部屋は3階にあるのですが、エレベーターがないので全部階段です。現在パリは、ずっと続いているのかもしれませんが、思っていた以上に日本の古典美術が流行っているようで、微妙に中国美術と同じものとしてもてはやされているようです。そのために勘違いされたのでしょう。最初の1日は、「nihon-ga painture japonaise 」としていましたが、来廊してくださる主に年配の方が、どうも古典的な日本画をイメージしていらしたようで、大変な思いをして階段を上がってきて、イメージと違っていたので、黙って帰られる方もいらしていたので、「これは勘違いしていらっしゃるのでは」と思い、2日目からは、自分の過去の作品の写真を貼ったところ、それ以後、気持ちよく見ていただく事ができました。でも、このようなことは他のopen studioでも、『「彫刻」と表示されていたので観に行くと、「彫刻の写真」だった』など、とても頻繁にあるようです。

作品を「奇麗!!観てよかった!!」と言って下さる人が多くてとてもうれしかったです。自分では、本画はそんなに『多作』していたつもりはありませんでしたが、「1年で全部描いたの?凄い!!」と言って帰れられる方もいらっしゃいました。観て下さった方の中には、『「シン‥」とした音のない世界の音が聞こえる。』『色の合わせ、描き方が繊細な“女性的”な独特な絵と世界』『ジッとみていたい、美しい、佇んでいたい世界の絵』と言ってくださったのがとても印象的でした。

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私は、今まで女性的な絵の表現をすることがひ弱に見えるのではないかと感じて避けていて、どうにかそうじゃない表現をしたい‥とまで思っていたところもあったので、自然に出てくるものは自然に任せてそれを活かしながら、さらに力強い流動的なものを作り上げていくことも、自分の表現を自然に描き起こせる、無理のない表現方法ではないかとも改めて感じました。最初はとても緊張していましたが、開催していくにつれて、非常に楽しくなってきました。なんだか施設全体がお祭りのようで、閉室ギリギリの時間に、前々からチェックしてくださっていたのか、すごい駆け足で私の部屋まで来て下さった人もいました。同時に開催していた多くのopen studioを廻っていた人に聞くと、私のアトリエは話したり、笑ったりのアットホームな感じだったらしいです。

この1年、濃厚な勉強と経験と、とても沢山のことを気がつかせていただく機会であり、本当に貴重な時間でした。この研究を今後に役立てることが必ず出来そうです。

  

  

藤倉明子

 

 

藤倉 明子(ふじくら あきこ)
1970年 埼玉県生まれ
自由学園女子最高学部卒業後、婦人之友社 編集部を経て、
1998年 女子美術大学芸術学部絵画科日本画専攻卒業
卒業制作展優秀作品賞受賞

1999年 第8回 佐藤美術館奨学生
2000年 女子美術大学大学院美術研究科(修士課程)美術専攻修了
平成25年度 女子美パリ賞受賞 現在パリにて研修中。

 

日本美術家連盟会員、創画会会友
主な受賞歴に、青垣2001年日本画展 読売新聞社賞(1999)
伊豆美術祭絵画展 優秀賞(2003)、
第7回女子美制作・研究奨励賞(2007)

  

  

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