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up date 2003.12.09

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【ロンドン通信 第3号】


□ 舟崎恵理(1992年専攻科宣伝計画修了)


舟崎恵理さんは卒業後東京でグラフィックデザイナーとして仕事をしたのち、ロンドンへ行きLondon College of Printingでbook arts を学びました。現在は製本家として仕事をしています。
また、2003年2月には英国でも国際的にも権威のある製本の協会・デザイナーブックバインダーズの準正会員Licenteate of Designer Bookbinders(U.K.)に選ばれました。現在はその仕事で超多忙のようです。舟崎さんもいろいろ皆様に書きたいことがあると楽しみにしています。


BOOKS FOR ALL (OR MAY BE FOR NOTHING!) 第3回

ミレニアム計画とロンドン

展望レストラン
テート・モダンの展望レストランから典型的ロンドンの街並が眺望できる。
ロンドンに住んで7年近くになるが、今でもイギリス人のアートやクラフトに対する懐の深さにつくづく感心する。ロンドンには、テート・ブリテン、テート・モダン、ビクトリア&アルバート美術館、ナショナルギャラリーなどをはじめとする大規模な美術館があり、入場無料なので、散歩がてらにミュージエム・カフェでお茶でも...といったようなことが気楽にできる。そして、とても真面目にミレニアム計画をしたのもイギリス人だ。ミレニアム計画の一環として2000年にオープンしたテートモダンの最上階は、展望レストランでテムズ川沿いのセント・ポール寺院や、ロンドンに最近出現しがちな未来的建築の例、ミレニアム・フットブリッジを目前にしながら、食事ができる。イギリス伝統のフィッシュ・アンド・チップスもテート・モダンのレストランの中では、何だか、ちょっと味が違う気がしてしまう。
まだ、テートが、テート美術館のみだった頃、小学3年生ぐらいの子供達が美術館を訪れていた。モダン・アートのエリアで、子供の一人が「これ、本当にクールだよ!」とはしゃいでいる。子供がモダン・アート?と驚いて振り向くと、彼は、ステラの巨大な鉄板をクールだと素直に感心している。友達にまでその鉄板を紹介してしまうほどの熱の入れようである。私が、その年頃の子供だったら、このエリアは工事中なんだと勝手に納得してしまっただろう。床にペタンと座ってスケッチにいそしむ子供の姿も見うけられ、皆、自由気ままといった様子だ。市民レベルでアートを楽しめるロンドンの一面をかいまみた気がした。



きゅうりの酢づけとシェイクスピア

ガーキン
ロンドンのビジネス街に突如現れた「ガーキン」。クリスマスになると、ライトアップされて、おかしなクリスマスツリーに化す。
ジョージ
1677年築だが、16世紀から存在していた「ジョージ」。ディケンズもこのパブにお世話になったといわれる。
テムズ川沿いといえば、「ガーキン(酢づけにするきゅうり)」というおかしななニックネームがついてしまったビルも最近のロンドン名物だ。ところがこのガーキン、真新しいのに窓にひびが入るという事故がたびたび起こり、ただいま修復中だそうだ。日本と違って、地震がないので建築基準が甘いとはいえ、真新しい建物に思わぬ欠陥が起きることがよくあるとは、のんびりしているイギリスらしい。そういえば、ミレニアム・フットブリッジも開通したあとすぐ閉鎖してしまった過去がある。揺れすぎるというのが原因だったそうだが、ただでさえ寒いイギリスの冬、テムズ川に落ちて凍えるのは避けたいものだ。新しい建物の間に、古い建築物がところどころ修復されつつ残っているのもロンドンの魅力である。よく見ると柱などが曲がってて、つぶれてしまうのではないかと心配してしまう。床がうねってみえるのも気のせいではないなかったり...。ロンドンブリッジ近くのパブ、「ザ・ジョージ」もそんな愛らしい歴史的建物のひとつだ。仕事帰りの一杯を楽しむ人々でにぎわうこのパブは、1677年に建てられ、今では、ナショナル・トラストに指定されている。かつてはシェイクスピアもここで1パイントのエールを片手に文筆に(デートにも!?)いそしんだといわれている。



警備員とロゼッタ石

あの有名なロゼッタストーンを見てみたくて初めて大英博物館を訪れた時のこと。もう6年近く前になるだろうか。怪しく黒光りするロゼッタ石を目の前にして、突然、「さわってみたい。」という強い欲望にかられた。石も「触ってください。」とばかりに無防備に展示されている。側には、見回りの警備員。そこでばか正直だった私は、「これ、さわってもいいんですか?」とその頃できる限りの丁寧な英語で聞いてみた。もちろん答えは「だめ」。当たり前である。ところが、数分後、人がまばらになった時に、彼が近づいてきて、小声で「見てないから、さわってもいいよ。」と耳打ちしてきた。きっと鼻にくっついてしまう程、石に接近している日本人を見て可哀想と思ったのであろう。おそるおそる触ったロゼッタ石はとてもひんやりとしていた。また警備員が近づいてきて今度は「どんな感じがした?」と聞いてきた。彼もきっと触りたかったに違いない!(改築して新しく生まれ変わった大英博物館では、ロゼッタ石はガラスケースに収められている。念のため。私のように、触りたい欲望にかられてしまった人が多すぎて石がすり減ってきているから、という話をどこからともなく聞いた。)



W.G.セバルドと初老の紳士

vertigo
注文製作したW.G.セバルドの「vertigo」。本は半分壊れかけた古いトランクに収まっている。
アートに対してもっとオープンで、アーティストには親しみをもって接してくる。製本というあまり知られていない分野を例にとっても、定期的に行われるレクチャーやマスタークラス、会議やイベントなど、製本家を支援するシステムが整っている。そして、ロンドンではアーティストが有名でなくても、老若男女、国籍に関わらず、チャンスは与えられる。製本レクチャーが始まるのを待っている間、私は一冊の本を読み終えようとしていた。長く待ちわびた、クライマックス!その時、背後で「そのページの写真のレイアウトから察するに、君はセバルドを読んでるね。」という声がした。その後はその初老の紳士とセバルド談で盛り上がったが、その時は彼から数カ月後に「作品が好みにあって、セバルドを読んでいたから。」という単純ともいえる理由で製本の依頼をされるとは思ってもいなかった。その製本を終えて、「マッドな感じに仕上がりました。」と連絡を入れると、ますますうれしそうに「楽しみにしている。」との答え。またまた、イギリス人は勇敢だと感心してしまう。来る12月11日はブックバインディング・コンペティションの受賞式が、これまたミレニアム計画で新築された大英図書館で行われる。世界的に有名な大英図書館も、この日ばかりは製本家たちの交流の場と化し、普段は、シブくて頑固なイメージがある製本の世界もちょっぴりお祭り気分らしい雰囲気に包まれるのだ。

 
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