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同窓会企画展「予期せざる出発」優秀作品賞受賞 古屋菜美子さんインタビュー2011.05.22

白い紙に沢山の点を散りばめた束と、この点が画面に広がる不思議な映像作品。2010年に行われた同窓会企画の「予期せざる出発」展で優秀作品賞を受賞したのは古屋菜美子さんの『monthly』です。 
沢山の迷いの中から生まれたこの作品は、まさに予期せざる出発という言葉にふさわしい作品でした。 
 
―卒業制作が元になっている作品という事ですが?― 
 はい。卒業制作展では、半紙に描いた紙を、壁に展示していました。残った物は床に置くと言った展示の方法でした。今回出展した映像作品はこの予期せざる出発のために制作しました。 
 
―どんな発想から制作された作品ですか?― 
 授業課題の中で課題の中で、線を描く課題があったんです。 
卒業制作で何を制作しようかという時に、なんとなく線を描きたいなと思い、初めは紙を破り、破ったかたちをなぞったり、なぞった線を重ねたりといった実験をしてみました。 
 考えて行くうち、点で線を描こうと思いついて…自分が歩いた道を描いてみたりもしました。 
 その後は、半紙が面白いなと思い、半紙を破って、濡らして縫い合わせてみたり、また点々をなぞったり…。色々な事を試してみました。 
 

―随分と試行錯誤されたようですね!― 
 制作に迷いがあるままでしたが、卒業制作の提出期限は来てしまうので困ってしまって。 
 点々を描いた作品が一番ボリュームあり、これでいこうと、年末にかけてひたすら枚数を増やしました。 
 その後も、表現を変えて点をなぞって線にしてみたり、またあきらめたりと繰り返しているうちに卒業制作の展示が迫って来てしまいました。 
 展示するものが紙の束のみで、壁に貼って展示、というところで卒業制作は終了しました。 
 
―あの点々は道筋ということですよね。― 
 卒業制作のときは、まだ迷っている最中だったので、道を思い出して描いた物が半分と、何も考えずに描いたものが半分でした。 
 卒業制作の講評会にいらした先生から「これは何?」と質問を受けて、何も答える事が出来ずにとても落ち込んでしまって… 
 でも偶然、講評会の帰りに、新宿の駅でばったり先生にお会いしたんです。そこで「ただ思い出して道を描くだけではなくて、日付を描いたら。」とアドバイスを頂きました。 
 それからは一枚ずつ、どの道を描くのか決めて日付を入れるようにしました。 
 いつどこに行ったな、なんて思いだして描く事は楽しかったし、このまま、作品にどんな意味があるのかわからずに終わらせてしまうのは気持ちに整理が付かなかったので、このまま続けてみようと一カ月ぐらい続けてみました。 
 
―映像は卒業制作ではなかった作品ですよね。― 
 映像を見るのはとても好きで、映像の授業も受講していました。 
 卒業してからは、学校にあるような機材などもなかったのですが、自分の持っている範囲の機材やソフトでも十分に制作が出来る事を知って、ちょっと試してみたくて、手元にある1カ月分ぐらいの点を打った紙で映像を試してみようと思いました。 
 今までのものを並べて映像にしてみたら、新しい見方が出来たのです。 
 そのころ丁度「予期せざる出発」の募集を知り、映像作品にして応募しました。 
 

―色々思い出しながら描いているという事でしたが、今、点々を見ながら、その日の事を思い出せますか?― 
 思い出せないです!まとめて書くこともあります。本当は一日ごと、その日の事を思い出して描けばいい良いのですが…。 
 
―今も点を描き続けていると言う事ですが?― 
 描いています。はじめてから一年ぐらいですが、日記のように描き起こしています。 
 忙しかった日など何も思い出せなくて、なかなか描けないです。でも出かけた日、自分の好きなことをした日などは楽しくて、描きたくて仕方なくなります! 
 
—素材は?― 
 紙は普通の半紙ですが、ペンにはこだわりがあって0.05mmの気に入っているペンを使っています。 
 
―描くのにはどのぐらいかかりますか。― 
早くて1ページ1分ぐらいです。眠くて、そのまま描きながら眠ってしまう事もあります。 
 長く描きすぎると、その日の事を描くというより、ここに点があるといいなと客観的に見てしまい、本来の意味とは違うものになってしまうように思います。 
 ここまで、描いてしまったので、もうやめることが出来なくなり、「どうしよう」って思っています。 
 もう少し、続けると何か分かってくるのではないかと思っています。 
 

―賞をとってなにか変りましたか?― 
 小さな事でも続ける事で、何か可能性が生まれるということを、本当に実感しました。 
 
―他の受賞者の作品を見てどう思いましたか?― 
 皆さん自分の作品に責任を持って「私の作品はこれです」という心構えがしっかりしているのが衝撃でした。受賞者の方のギャラリートークを聞いても、しっかりコンセプト
があってプレゼンテーションが出来ているので、すごいなあと思ってしまいました。私の作品は、コンセプトをどう話して良いのかと迷ってしまいます。 
 
—古屋さん、ありがとうございました。― 

 

 とても、真面目で素直な印象で、この作品展が古屋さんの中でも一つの出発となっているように感じました。「予期せざる出発」JAM展では授賞された映像の作品と紙の束も展示されるという事です。

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