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藤倉明子さんのパリ通信 vol.22014.02.12

 

 パリにきて約10カ月。パリでの活動の中での、「模写」活動を今回報告いたしたいと思います。

 


毎週1回、2回ほど、多い時には毎日、美術館に模写をしに行っています。もちろんスケッチのために遠出をすることや、体調がすぐれない時、また、違う用事のために行けない週もありますが、出来るだけ週に1回のペースで模写を行っております。その模写の多くは『ルーブル美術館』です。シテの施設から歩いて約30分。とても住み心地のよい場所に部屋があるので、とても便利です。なぜに週に1回から2回ほどかというと、そのルーブル美術館が夜間営業をする日が水曜日と金曜日だからです。平日の普通の日のルーブル美術館の混みようは、芋の子を洗うような感じです。初めて模写をしに行こうと行った午後2時ごろの去年の4月のあまりの混みように、近くの学芸員さんに「なんか、今日は特別な日なのですか」と尋ねたところ、「いえ。この人ごみはいつものものです。」と答えが返ってきました。比較的空いている時間帯は午前の早い時間と夜間営業時間だということで、個人的に朝のとても弱い私は、水曜日と金曜日の7時から閉館までを模写の時間と決めました。ルーブル美術館は9時45分が夜間閉館時間です。その後歩いて帰っています。
美術館で絵画を模写する‥ということは、日本ではだいたいの美術館は禁止していますので、フランスではどこまで模写の道具を持ちこんでいいのか、様子見で持ち込んでます。最初は小さなスケッチブックと鉛筆から。徐々に色鉛筆やら筆やらを持ち込み、最終的にはパレットなどを持ちこんで持参の椅子で描いてます。

自分が魅かれるものを彫刻から絵画まで、手当たり次第に描いています。今回パリ賞をいただいて目標にしているものに、「自分の作品をもう一回見直してみる」ということですから、原点に戻って、自分が何に本当に魅かれるのかを客観的に観てみるということも大事なことです。時代もあまりこだわりなく描いていますが、約1年描いていると、たまっていくものをみてみると、次第に偏りが出ていることも分かります。自分の制作の方向性も頭ではなく、自然に固まってくるものなのですね。これも成果の一つだと思います。私はどうも、古代からルネサンス、また、幻想美術に魅かれているようです。大学試験の時のような「形を正確に描かなければならない」というものではありません。魅かれるものは偏っていますが、それを今回どう表現しようとかと模索しながら絵を描けるので、「こんな雰囲気を出そう」とか「力強い形の表現をどうとらえようか」などと模索しながら描けるので、正確な形は二の次、気負いはありません。難しそうで簡単。でも簡単そうでよく観て描いているととても難しい。帰宅する時は「調子いい」とウキウキしながら歩いて帰る時もあれば「ぜんぜん表現できない」とガックリと落ち込みながら帰る時とに両極端に分かれます。特にロマネスクあたりのものは、顔に凹凸があまりないので表情がどうとらえていいのか難しい人物が多く、その日の私の気分によって一つの作品の顔が、笑っていたり、難しい顔をしていたり、悲しそうな顔をしていたりするので、まるで仏像を描いているような気分になります。

 

絵画を模写したいと思っていましたが、これがなかなかこれが勇気がいる。大抵は彫刻へと模写をしてしまいます。野外でスケッチしている時もそうなのですが、美術館の中では明らかに露骨にされるのが、描いているところを撮影されることです。それはそれで、しょがないとあきられめてはいるのですが、時には明らかに私を撮っているということでフラッシュをたかれたり、時には描いているのに「ポーズをとってください」とまで注文されるので、恥ずかしいのですが、しだいに描いていると、廻りがあまり気にならなくなるので、この頃は「どうにでもして」という感じで、少し慣れました。とはいっても、描きたい絵は誰でも必ずは行く「モナリザ」の絵の近くで、夜間だろうと人は多いので、描きたいけれど恥ずかしくて描けない‥という事態でした。
ということで、やっと描きたい絵画を模写出来るようになったのが8月。現在「サモトラケのニケ」が工事のために撤去されていますので、いつもならあまりの人の多さに描くことができないボッチチェリの絵を模写しています。ニケがないので多くの来館者が素通りしてダビンチの絵の方に行ってしまうのです。

その他にギュスターヴ・モロー美術館で模写もしています。この美術館、私が世界で3つのうちの1つの好きな美術館ですが、ほぼ毎週通って絵を見ながら考えをまとめたり、色や形を勉強したり、モローの残したスケッチを心行くまで何回もみてたりしていた場所だったのですが、7月中旬に部屋で描いている日本画の乾き待ちの間に言ったら「12月まで工事します」と張り紙が貼ってあり、休館していたので、12月まで首を長くして待っていたのですが、ヨーロッパのこと。日本のようにきちんと日を守らないだろうな‥と思っていたら、予感的中。案の定、12月なっても開館する気配がなく、ようやく1月の半ば過ぎたところで開館したので、怒涛のごとくおしかけています。私がとても影響を受けた画家です。彼の膨大なスケッチの一部分も、公開されていて、椅子に座りながら好きなようにこのスケッチを観られるということで、私の中ではとても貴重な美術館です。学芸員が時々話しかけてくれたりする。私の模写の感想だったり、描いている作家について話してくれたり、時には何も関係なく、暇なので世間話を話しかけてみた‥という感じの時もあります。

 

2月11日と12日にシテの施設の部屋にて「オープン・スタジオ」をする予定です。
いい展覧会になるといいのですが。

藤倉明子

 

 

藤倉 明子(ふじくら あきこ)
1970年 埼玉県生まれ
自由学園女子最高学部卒業後、婦人之友社 編集部を経て、
1998年 女子美術大学芸術学部絵画科日本画専攻卒業
卒業制作展優秀作品賞受賞

1999年 第8回 佐藤美術館奨学生
2000年 女子美術大学大学院美術研究科(修士課程)美術専攻修了
平成25年度 女子美パリ賞受賞 現在パリにて研修中。

 

日本美術家連盟会員、創画会会友
主な受賞歴に、青垣2001年日本画展 読売新聞社賞(1999)
伊豆美術祭絵画展 優秀賞(2003)、
第7回女子美制作・研究奨励賞(2007)

 

 

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