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松沢真紀さんのパリ通信 Vol.22011.12.12

 

 

年の暮れを感じさせる今日この頃、パリではクリスマスに向けた準備が始まっています。町のウインドウにはサンタクロースがあふれ、シャンゼリゼでは11月23日の夜から冬のイルミネーションが始まり、3つの大きさの違う円形のネオン管が大通りの200本の樹の廻りを被います。

 

そのなか、今回はわたしが通っている工房を紹介します。バスティーユから少し歩いたアトリエ街にあるATELIERS RE-NAISSANCEはAndré Fisch氏と Agnès Raynaud氏 の2人が経営する小さな工房で、卵テンペラや金箔装飾、イコン画といった古典絵画技法を、模写を通して教えています。また、ただテクニックを身に着けさせるのではなく、それを通し作家の人生や制作における姿勢をも感じさせようという氏の意向から周期的に、意欲的な討論会・作品研究会を行っている工房です。 

 

 

これまで私は、ここで静物画とハンス・メムリンク(Hans Memling)の聖母子像を混合技法を用い、模写をしました。兎皮の膠を鍋でグツグツ煮て、それに石膏を混ぜたものを木の板に塗ります。これにローシェンナという黄土色のテンペラ絵の具を塗り、卵や樹脂などで溶いた白テンペラ絵の具を細い筆で、浮き上がるようにハイライトを描きます。その後、グレーズと言って、薄い油絵の具の層を塗り、その油彩の薄い膜を白テンペラを塗布した極細の筆でハッチングして描いていきます。(その事によって、色が混ざり中間色を作ります)絶対にベタに塗ってはいけません。この薄い層が、最低5、6層多くて10層以上になることもありました。

 

そして、この11月からは宗教画家ジョット・ディ・ボンドーネ(Giotto di Bondone)の描いた聖母子像の模写に取り組んでいます。今回は初めて、金箔装飾を体験することになりました。初めにボローニャ石膏と膠水を混ぜ合わせた石膏液を丹念に5~7回に分けて塗り、下地仕上げ(石膏磨き)として石膏が乾いた後、サンドペーパー・研磨石でゆっくりと磨きだし、表面を滑らかにします。金箔を貼る箇所に膠と混ぜたボーロ液を5回塗布、次に箔貼りです。ボーロを塗った箇所に水で濡らし、あらかじめ箔ナイフで適当な大きさに切った金箔を箔刷毛で置いて箔磨き。瑪瑙棒で乾いた金箔の表面を磨きこんでゆくと金箔に美しい光沢を帯びます。

ご存知のように金箔は薄く、ちょっとした空気の流れで皺ができてしまうので作業現場は張り詰めた空気が流れます。少しでも他人が横切ると「アトンション!(気をつけて!)」という言葉が飛び交い、みなピリピリしています。さらに専用のナイフや、クッション、研磨石など、どれをとっても歴史を感じさせる品物で、見るも触るも初めてなもの。どう扱っていいかとみなの緊張は増すばかりです。

 

日本人は私ひとりなのですが、この工房には様々な国のアーティストが学びに来ています。そういった人々と討論会で話せるのもこのアトリエの持つ魅力の一環で、私がこのアトリエを選んだ理由の一つです。様々な環境、宗教、習慣の違いから、同じ作品を前にしても様々に異なった意見が聞かれ、毎回新しい発見があり飽きることがありません。あるベトナム人は宗教画を、昔のグラビア写真だといっていました。公明正大に女性像を楽しむための口実として、裸体の神が描かれたのだと。そういえば意味も無い裸体で神様が出てくる絵が多いなあと、なんだかうなずけたりしました。

 

さて、私の金箔ハリの結果はというと、何回も貼りなおし、金箔を浪費しましたが何とか成功!このまま一晩おいて次は、卵と水のみを使った着彩です。仕上がりは年明けになるでしょう。

 

 

松沢真紀
Maki Matsuzawa

神奈川県横浜市生
平成19年3月 女子美術大学 芸術学部 絵画学科
(洋画)卒業
平成21年3月 女子美術大学大学院 美術専攻
(洋画研究領域)修了
サイト:
ギャラリー・ガスパール(Gallery Gaspard)
http://matu3ha.web.fc2.com/

 

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