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高橋香菜子さんのミラノ通信 Vol.12011.12.12

ミラノ通信がスタートします!
ミラノ賞の受賞者、高橋香菜子さんからミラノ滞在記が届きました。

ミラノ滞在8ヶ月を過ぎ、時はクリスマスシーズン、本格的な厳しい寒さですが、イタリアはとても元気な雰囲気です。
常に自分に正直に、楽しく笑い、食べ、働くイタリア人との生活に、徐々に溶け込む生活が続いております。
時の流れは緩やかに、古く歴史的な建物が町を美しく彩るミラノでは、その生活のあらゆるシーンにおいて、デザイン、アート、建築を学ぶに適した場所だと、肌で実感することが出来ます。
このような素晴らしい経験の機会を与えてくださった大村先生を始めとする女子美の皆様には、心から感謝する毎日です。
 
私が毎日研修先として通っているのは、ミリオーレ・セルベット設計事務所です。
昨年度新しく改装してオープンした、ワルシャワにあるショパンミュージアムを設計された事務所で、
プロジェクトのバリエーションは、建築設計に限らず、グラフィック、プロダクトと幅広い領域のデザインを手がけられております。
 
研修とはいえ、私はイタリア語初心者としてミラノに渡りましたので、滞在の初めの数ヶ月は語学学校にも通っておりました。
8ヶ月経った今でも、イタリア人とのネイティブな会話に入ってゆけるレベルではありませんが、それでも事務所では様々な作業をすることが出来ております。
ミラノで学びたい、という想いを、事務所のマーラ先生が感じ取ってくださること、また事務所で働いている所員さん全てが、
寛容に受け止めてくださっていることで、成立していることと思っております。
 
(写真・ナヴィリオ地区の運河)
 
ミラノのナヴィリオ地区という、美しい運河のある、ゆったりとした時の流れの中に、事務所はあります。
モード、デザインの最先端であるミラノでありながら、古い歴史の面影を映し出す、下町の風景が広がっております。
事務所自体も、古い建物の外観を残して改装されており、そこから新しいデザインが生まれてゆきます。
そばには、モード関係の工房もあって、ものづくりの機械の音が聞こえてきます。
トラムを待っていると、近くの教会から鐘の音が聞こえてきます。
そうして、古い古いトラムがトコトコやってくると思ったら、ジェラートを美味しそうに食べるおじさまが、そばを横切ってゆきます。
カフェからは、美しい紅のワインを飲みながらのお喋りが常に聞こえていて、可愛らしいわんちゃんもお店の中に入ってゆきます。
 
五感をフル活用して町を歩いていると、生き生きと美しいイタリア人の生活が、デザイン、アートと密着して溶け込んでいることに気が付きます。
 
こちら、所員の皆様(私は撮影者なので映っておりません)。
 
朝9時半からスタジオは始まります。
スタジオの中は、いつも窓からの光のみで、照明は大抵ついていません。少し薄暗い雰囲気の時もあります。
天井が高く、アーチ型の大きな窓から差し込む光だけで、十分仕事は出来るみたい。夏は冷房もほとんどつけません。
それは、外の世界と、内の世界の境界線が無くなって、町のゆったりした空気がそのまま、スタジオの中にも流れ込んでいる、ひとつの要因になっているかもしれません。
 
働く人の雰囲気も、日常モードと仕事モードでの無理矢理な切り替えをせず、自然体でのコミュニケーションが常に行われております。
良いものを創る、デザインしてゆく、という目的のために、互いにリスペクトを忘れずに、立場を超えて対等に、言うべきことを言い合っています。
私的な感情で左右されずに、でもユーモアは絶やさずに。スピードは速く、傾向や派閥にとらわれないセンスがどんどん磨かれてゆきます。
 
図面作成や、模型制作、手描きでのイメージ資料の作成などのお手伝いを少しずつ頂きながら、毎日のイタリア人の働き方、アイデァの出し方などを常に観察しています。
初めはなかなか雰囲気をつかめずにおりましたが、半年経つくらいから、所員さんひとりひとりのキャラクターがなんとうなく分かってくるくらいに、溶け込めるようになりました。
 
常に生き生きと楽しく仕事をしている雰囲気が、今では本当に好きな空間となりました。
言葉が通じなくても、心を開いてゆくことがとても大切であることが、毎日の中で一番学んでいることかもしれません。
全く何を言っているのか分からず、悔しい瞬間も幾度もありますが、それでも前に進んでゆきたいと思えるのは、こちらが投げかけた質問や意見に対して、湾曲のないストレートな答えを投げ返してくれる、イタリア人の気質がとても好きだからと思います。
 
彼らの生活、大切にしていることなどをこれからも観察しながら、なぜイタリアのミラノが、デザイン、アート、ファッション、建築で秀でているのかということの、ヒントを見つけてゆきたいと思っています。
 
(このトンネルの向こうに、スタジオはあります。)
 
 
(アナログベルがインターフォンです。)
 
 
(照明をつけずに窓からの光で仕事をしています。)
  

(その他、スタジオ風景)
 
今回は、スタジオについて大まかに記させていただきました。
次回からは、もう少し細かくスタジオ、ミラノ生活での出来事などを書きたいと思います。

高橋香菜子 Kanako Takahashi
神奈川県横浜市生
2006年3月
女子美術大学芸術学部デザイン学科環境デザインコース卒業
2006年4月-2009年9月
株式会社イトーキデザイン室勤務

 

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