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野口香子さんのパリ通信 Vol.32013.01.16

女子美のみなさま、明けましておめでとうございます。
パリ通信3回目をお届けいたします。
 
パリの年末年始は、家族で過ごす静かなパリのクリスマスと正反対に、31日から1日にかけて友人同士で賑やかなパーティーで新年をお祝いします。
私達家族は、奥さんがアメリカ人で旦那さんがフランス人、子供は10才の双子姉妹という、近所の親しい家族に招待されていましたので、この友人家族宅で、チーズを使ったサヴォア地方料理とシャンパンを頂いて新年を過ごしました。この双子ちゃんは二卵性の双子で、2人とも髪の色も、顔立ちも、性格も驚くほど異なっているのですが、共通点はすらりとモデルのように背が高いこと。パーソナリティもなかなかなもので、今まで数回、私の作品制作にも参加してもらっています。

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今回は、昨年、岩手県立美術館で「あるひとつの祈りー苺たちと共にー」というインスタレーション展示を展示させていただいた時のこと、また美術館でのワークショップについて書いてみたいと思います。岩手県立美術館は、松本竣介、舟越保武、萬鐵五郎など、岩手にゆかりの深い作家の常設展示室もあり、新幹線の盛岡駅から車で10分ぐらいのところにあります。私は、4月の東京での展示後パリに戻っていたので、6月の展示のために会期一週間前に一時帰国をして、美術館でインスタレーションの組み上げをしました。

昨年の6月16日から8月末まで約2ヶ月半の間、インスタレーション展示をさせていただくことになったのですが、このグランドギャラリーの空間は、高い吹き抜け天井と、壁がすりガラスのように半透明になっている、通称、光の壁と呼ばれている壁があり、真っ白な光のあふれる空間で、まるで雪の中に、紙の苺の赤がくっきりと浮かび上がるようでした。

また、岩手県立美術館での苺のインスタレーションをする際に、是非、苺のドローイングブックの苺たちを、東北地方の方々を中心に、子供や大人の方に色々に自由に塗ってもらい、一緒にみなでなにか一つの展示することができないかと思っていました。幸いにも美術館の協力を得ることができ、美術館のウェブサイト上から、苺の塗り絵をフリーダウンロードできるようにしていただいたり、美術館に送られてくる苺の塗り絵の開封展示作業などや、一週間ごとに部分的に貼り替えをしていただいたり、ずいぶんと美術館の職員の方にもお世話をおかけしました。

でもおかげで美術館の高さ8メートルほどもある光の壁に、皆さんから届いたたくさんのカラフルな苺たちが、まるで教会のステンドグラスのようにきらきらと透けて、岩手、福島、気仙沼、青森、京都、東京、千葉、神奈川、名古屋、広島、熊本、フランス、スイス、オーストラリアなどからの、思い思いに色付けて届けられた、およそ1600枚ほどの苺たちを、美術館に展示することができました。宮城県気仙沼の保育園でも、本当にたくさんの小さな子供たちが挑戦して美術館に塗り絵を送ってくださったり、京都のフランス人学校も参加してくださったり、皆さんの協力でとても熱のこもった展示になりました。

また8月上旬には、美術館で2日間の苺のワークショップをさせていただいたのですが、岩手県立美術館のワークショップは、朝の10時頃からお昼を挟んで午後3時頃までという、美術館の子供対象のワークショップとしては、とてもゆったりと時間をとったものでした。このワークショップには、青森県や岩手沿岸部の宮古市から来てくださった家族もいて(岩手県は大きく、ほぼ四国の大きさ。沿岸部と内陸部の間にある山越えも大変で、車で沿岸部からは最低片道2時間以上かかります。)、前半は私が作品についてのレクチャーをし、そして実際に皆でさまざまの大きさの紙の苺を、牛や様々な年齢の人間の心臓などに見立てて、美術館内のアトリエで制作し、午後には実際にそれぞれが制作した苺を使ってのインスタレーションに挑戦してもらいました。また午後の最後には、子供たちの腕の中に、子供たち自身で作った紙の苺を、私がインスタレーションしていき、〈苺のポートレート〉の撮影会を行いました。午前中は恥ずかしそうにしていた子供たちも、午後最後の〈苺のポートレート〉の撮影会の頃には、すっかりうちとけ、まっすぐな眼差しをこちらに向けてくれ、とても感激しました。


野口香子〈あるひとつの祈り〉ーLe visible et l’invisible ー
紙、呼吸、椅子 600x260x97cm 2012
岩手県立美術館/盛岡


野口香子〈あるひとつの祈りー苺たちと共にー〉岩手県立美術館での、展示風景。
奥正面の光の壁には、壁一杯に貼られた苺の塗り絵の数々。
右奥には〈La Neve〉(イタリア語で雪。)という、大雪のボローニャの町のあちこちに苺があらわれる映像作品が。

岩手県立美術館の子供向けワークショップでの、〈苺のポートレート〉の撮影会。
2日間で21人の子供たちの写真を撮りました。父兄の方々も子供たち一緒に沢山参加してくださったので、みなで沢山の色々な大きさの苺の制作ができました。
この数日後、取材に来ていた盛岡タイムスの記者さんが、ワークショップの様子を記事に大きく取り上げてくれました。


グランドギャラリーの光の壁を彩る苺の塗り絵たち。東北地方の子供たちの苺の塗り絵を中心に、女子美の同級生や、フランスの小学生たちからも沢山の塗り絵が届きました。植物園勤務の方や、デザイナーの方、電子物理学者ママからなど、大人の作品もあります。
会期中程からは、福島県伊達市の3つの小学校や、宮城県の沿岸部塩釜市の小学校からも、沢山の苺の塗り絵ブックが届き、こちらは館内にテーブルを出して展示をしました。


野口香子〈苺のポートレート〉パリ編
Color print 2012
岩手県立美術館

インスタレーションの左手の壁には、31枚のパリで撮った〈苺のポートレート〉も展示しました。皆それぞれに、紙の苺を心臓の位置にたずさえています。
両親が、パレスチナや、ボスニアヘルツェゴビナなどからの移民の子供たちの写真も。

野口香子(のぐちこうこ 美術家)
女子美付属中学高校を経て、1993年女子美術大学絵画科日本画専攻卒業。
第2回女子美パリ賞、文化庁在外派遣員、ポーラ美術財団在外研修員などを経て、パリ在住11年目。
主な出品展に、「VOCA展2004」(2004年、上野の森美術館)、「第5回アルテラグーナアートアワード」(2011年、アルセナーレ、ヴェネツィア)、「ポーラミュージアムアネックス展2012-華やぐ色彩-」(2012年、ポーラミュージアムアネックス)、「あるひとつの祈り-苺たちと共に-」(2012年、岩手県立美術館)など。主な受賞歴に、第5回アルテラグーナアートアワード特別賞。

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