Art & Communication
エアメール

パリ通信一覧を見る

野口香子さんのパリ通信 Vol.52013.03.25

パリ通信5回目

女子美のみなさま、こんにちは。今回は、いよいよパリ通信連載の最終回です。
パリ通信にもかかわらず、昨年はポーラミュージアムアネックス、岩手県立美術館、ポーラ美術館、そして福島の小学校で、苺のインスタレーションの展示をさせていただく機会があり、必然的に日本での展示についての話題が中心になってしまっていましたが、先日3月7日に、パリ第7大学の日本語学科でのゲストスピーカーなるものに呼んでいたき、パリの大学での授業にお邪魔してきましたので、最終回はその時のお話を少ししてみたいと思います。

***

パリ通信の第一回目にもお話したように思うのですが、パリのママ友達は皆仕事をしている人が多いのです。
先日、パリ第7大学の日本語学科に、私をゲストスピーカーとして呼んでくださったYさんは、私と同い年。そして双子の男の子のママでもあります。彼女はもともとパリで情報科学系の大学教員をしていたのですが、平行して大学生に日本語も長年教えていたのだそうです。お互いの子供同士の年齢が近いこともあり、しょっちゅう会う訳ではないけれど、美術系と理系というなんとも不思議な組み合わせですが、なんとなく会って話すと気が合うのでした。震災後に、パリ在住のママ達と一緒に、被災地へ塗り絵を送ろうとした時に、一番力になってくれたのもこのYさんでした。
そういう訳で、先日3月7日に、日本語を学んでいるパリ第7大学の3年生の授業にお邪魔してまいりました。うちの旦那は数学を大学院生に教えているので、ふだんすれ違う数学の学生さんたちはみんなけっこう見た目がおじさん(失礼!)なのですが、大学3年生ともなると、やはり、もうちょっと若々しいですね。笑。でも日本の大学生と比べるとずいぶん大人びている気もしますが。こちらは18才で成人なので、前回大騒ぎした大統領選挙にも参加してきた訳で(関係ないか。。。)、かれらはもうかれこれ3年は成人生活を送っているのだな、と考えたりして。

また、ゲストスピーカーで呼ばれたのは私の他にもう一人いらして、パリ日本文化会館の、日本語教育と知的交流担当の方でした。
話す主題は自由でしたので、私は昨年の日本での岩手県美での展示、ポーラミュージアムアネックスでの展示などの写真をまとめたものを使って話しました。また福島の小学校でのワーショップの写真では、一見不良そうな(ゴメンナサイ。)男子学生達もそれこそ目を細めて、笑顔で写真を見つめてくれました。実は、岩手県立美術館でも展示した苺のポートレートシリーズのパリ編は、ポーラ美術館での苺のインスタレーション展示の際には、ビデオボックスを使って会期中上映したのですが、福島編に関してはポーラ美術館での上映許可がおりなかったので、この苺のポートレート福島編を、今回こちらパリ第7大学の授業で一部紹介させていただきました。こちらも学生さん達皆、真剣に見入ってくれました。そして先月、福島の県立図書館で高校生たちが展示してくれた苺のインスタレーションも、紹介することができました。
その後の質問タイムでは、さすがおしゃべり好きのフランス人、みんな沢山のいろいろな質問をしてくれて感激しました。
2つ目ぐらいの質問で、熱血系風の男の子が、フランスでは美術は知的議論の場だけれど、日本の美術はどうか?と聞かれたので、「そうね~、確かに今のパリの美術は知的ゲームなような面が大きいよね。昔であれば、日本は印象派の時代はこぞってフランス美術を真似したり、今はフランスよりむしろドイツとかニューヨークとか、いまだに真似がかっこいいという傾向は日本で終わっていない気はするけれど、最近はもっと議論してもおもしろいようなオリジナルな人も出てきていると思うな。そういえば昔自分がすごくあこがれて幸運にも出品することができVOCA展のカタログを、ベルリンからきている若いアーティストの女の子に見せた時、他の出品者のページをめくりながら、これはリヒターでしょ、これはだれそれ、でこれはだれそれのパクリじゃない。ホントに日本人の展覧会なの~?と一喝されてがっかりした。」とかいう話をしたら、すごい受けていました。笑。

パリ日本文化会館からいらしていた方が2人、日本語学科の先生方が3人、そして学生さんもあわせて20人ぐらいの少人数授業でしたが、学生さんたちとの思いがけない交流は、私にとってなんだかなつかしいようなそしてとても有意義な午後のひとときでした。

今回で、私のパリ通信連載は終わりです。私のいくつかのパリ通信コラムを読んでくださった方がいらしたら、本当にお礼を申し上げなければなりません。
文章が分かりにくかったり、いろいろ読みづらい部分も多かったと思います。おつきあいくださいましてどうもありがとうございました。
それではみなさんどうぞお元気で!

野口香子

昨年11月に福島の駅前、中合百貨店の階段や渡り廊下を埋めつくした苺の塗り絵たち。福島の新聞社である民報社さんが福島市内の市立保育園、そして福島県内の私立幼稚園に声をかけてくださって実現しました。福島市、飯舘村、大熊町の園児のみなさんなど約2000人が、たくさんの苺を塗ってくれました。この園児たちによる苺の展示会は、福島の新聞やテレビでも紹介されたそうです。(写真提供:福島民報社)

子供たちの将来なりたいものや、今の願いなど、幼稚園の先生がたによる聞き書きが添えられている塗り絵もたくさんありました。
まつぼっくりひろいがしたい、とかジャングルジムであそびたい、など、外遊びに制限のある子供たちの声もあります。心が痛みます。(写真提供:福島民報社)


野口香子&福島の高校生たち あるひとつの祈り-しのぶやまの麓で –
紙、呼吸(部分写真) 2013 福島県立図書館/福島
photo:阿部隆徳 

福島の高校生とのコラボレーション。先月の2月23日24日と福島の県立図書館内ブックフェアー内で、図書館のガラス壁に紙の苺約270個を使い、高校生たちが展示を行ってくれました。苺の向きは、地震の起きた時刻等、震災後の時間軸を表しています。

先日3月7日、パリ第7大学の日本語学科3年生の授業にゲストスピーカーとして、お邪魔しました。苺のインスタレーションについて説明する私。手には苺。。。

パリ第7大学はフランスでは理系の大学として有名なのだそうです。
(ちなみにパリ第1、第3、第4大学をひとまとめにした通称が、皆さんご存知のソルボンヌです。)3年生のみなさん、日本語歴3年目にしては皆日本語が上手です。日本の大学と違い、こちらは入学するより進級する方が難しいそうで、100人いた1年生も、卒業の頃には振り落とされて20人ぐらいになってしまうそうです。。。
学生の皆さん、予想していたよりずっと真剣に聞いてくださってうれしかったです。感謝。

野口香子(のぐちこうこ 美術家)
女子美付属中学高校を経て、1993年女子美術大学絵画科日本画専攻卒業。
第2回女子美パリ賞、文化庁在外派遣員、ポーラ美術財団在外研修員などを経て、パリ在住11年目。
主な出品展に、「VOCA展2004」(2004年、上野の森美術館)、「第5回アルテラグーナアートアワード」(2011年、アルセナーレ、ヴェネツィア)、「ポーラミュージアムアネックス展2012-華やぐ色彩-」(2012年、ポーラミュージアムアネックス)、「あるひとつの祈り-苺たちと共に-」(2012年、岩手県立美術館)など。主な受賞歴に、第5回アルテラグーナアートアワード特別賞。

一覧を見る